「ポンペイ展 世界遺産 古代ローマ文明の奇跡」展覧会レビュー 2010年3月23日 前友洋 |
※このレビューは2009年11月11日の記者発表と3月19日金曜日の記者会見・内覧会を元にアンファンゲン代表の前友洋が記しています。
※掲載されている文章、ならびに画像の無断転用はご遠慮ください。
※内容は予告なしに変更、削除されることがあります。
この展覧会は2010年3月20日土曜日から6月13日日曜日まで横浜美術館で開催されます。
いくつかのカテゴリーに分けて紹介します。
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Ⅰ 「ポンペイの都市文化・富裕層の生活風景」を紹介する展覧会 |
今展ではポンペイから190点、エルコラーノから21点、その他周辺地域から43点の計254点の遺構・出土品が出展されています。
その中心が家具、日用品、アクセサリー、家に飾られていたフレスコ画、娯楽調度品です。
これら遺構・出土品を通じて約500年の歴史を誇る成熟をした都市「ポンペイ」の「都市文化」や「富裕層の生活」が紹介されています。
「ポンペイ展」は日本で何回か開催されてきました。その内容は「アート」を紹介するものでした。
しかし、今までの「ポンペイ展」と今展の違いは、今展のテーマが「ポンペイの都市文化・富裕層の生活風景の紹介」というポンペイ全体に至っている事です。
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Ⅱ 「博物館」と「美術館」を交互に巡回 |
今展は美術館・博物館(福岡市博物館・横浜美術館・名古屋市博物館・新潟県立近代美術館・仙台市博物館)を5ヶ所巡回する展覧会です(福岡市博物館で公開は終了しました)。
今展のような歴史的な発掘品の展示は博物館で開催する、というイメージが一般的ではないでしょうか。
しかし、この巡回展は博物館⇒美術館⇒博物館⇒美術館⇒博物館と、交互に巡回するという珍しい構成になっています。
そもそも、博物館と美術館は何が違うのか。
博物館は歴史や美術、芸術(アート)、人々の生活などを幅広く収集、公開をしています。それに対し、美術館はアートを専門に収集、研究、発表していて、美術の分野に特化した存在です。
大きくいえば、歴史における全てのものを扱う博物館と、ピンポイントの美術館となるでしょう。
そのような“ピンポイント”の美術館が博物館の次に今展をどう見せてくれるのかが一つのポイントと言えます。
「ポンペイ展」は1997年に一度横浜美術館でも一度開催されています。
当時の企画は「壁画・フレスコ画」を中心とした「ポンペイのアート」にスポットライトが当てられた企画でした。
横浜美術館で開催された展示だけではなく、冒頭でも書きましたが現在まで日本で開催された「ポンペイ」に関する展示は「アート」中心でした。
そのため、比較的美術館での展示もやり易かったのではないでしょうか。
今回の「ポンペイ展 世界遺産 古代ローマ文明の奇跡」では「当時の富裕層の生活」「ポンペイの都市文化」にスポットライトをあてる事が大きなテーマになっています。
「生活」「文化」が中心ですから、そこにどう「美術」を結び付けて行くのか。または、装飾品などから当時のポンペイの「美意識」をどう紹介し「文化」「生活」に結び付けていくのか。
美術館のトップバッターである横浜美術館はその特徴を生かし、「美的部分」を打ち出した展示を試みています。
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Ⅲ 「プロローグから始まる10章の展示」 |
今展はプロローグを含む11ブロックから構成されています。
今展は、当時の風景、装飾品を身に付けている姿、神々の姿が描かれている47点のフレスコ画が展示されています。
装飾が見事な銀食器、精巧に作られた調理用具や彫刻に対し、フレスコ画は今展の冒頭と最後を飾るなど、効果的に展示されています。
このフレスコ画とその他の展示品との関係、バランスは、美術館の特徴が出ている(美的部分を打ち出しながら、今展の大きなテーマを引き出している)と言えます。
今展に出品されている遺構・出土品、そして横浜美術館の今展でのアプローチにより、たった一日で姿を消してしまった都市「ポンペイ」の優れた高い美的表現、感覚、意識と当時としては非
常に高い生活水準を十分に知ることが出来ます。
それでは各ブロックの特徴と目玉を紹介します。
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プロローグ
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紀元79年8月24日、「ポンペイ」はヴェスヴィオ火山により一日で埋もれてしまいました。
その後2~3世紀ほどはポンペイが存在したという意識はありましたが、その後ローマ人・ヨーロッパ人から忘れ去られてしまいました。
それから約1650年もたった1748年ぐらいかいよいよ発掘が始まりました。
これまでにポンペイが存在したとされる土地63ha、城壁3.2kmのうち4/5の発掘が終わっています。
※現在ではこれ以上の発掘は遺跡自体を傷つけてしまう、もう目新しいものは発見されることは無いだろうというような理由により、発掘は中止されています。
※紀元79年頃の日本は弥生時代中期から後期。
ナポリ周辺から発掘された当時の風景画描かれたフレスコ画と2002年に地上から約7m50cm下から発掘された「人体・噴火犠牲者の型取り」が展示されています。
同時に、足枷や腕輪など、反映の光の部分に反した影の部分(奴隷)を物語る出土品も展示されています。 |
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第一章 ポンペイ人の肖像
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当時のポンペイ人の肖像彫刻によって、生活と実在人物を紹介しています。
富裕層では現在でいう肖像画などと同じような感覚で、成功の証、富の象徴として客間などに肖像彫刻を飾っていたようです。 |
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第二章 信仰
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石の彫刻とフレスコ画で当時の信仰を紹介しています。
ローマの植民地であったポンペイではギリシャ神話の神々が祭られていたようです。 |
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第三章 娯楽
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スポーツ、演劇など、ポンペイの人々も娯楽を楽しんでいました。
中でも老若男女が特に熱中したのが“グラディエーター”の戦いでした。
そのグラディエーターの防具や短剣、小さな像などが展示されています。
スポーツではレスリングのフレスコ画が展示されていま |
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第四章 装身具
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金で作られた指輪、ピアス、ネックレスなどのアクセサリーが展示されています。
また、銀で作られた手桶や油壺など、美術品としてもとても優れたものがあります。 |
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第五章 家々を飾る壁画
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出土したものの中でも大きなものを中心に展示されています。
中でも注目なのは、エルコラーノで出土した額に納められた作品「三脚を飾るクピドたち」です。
噴火の際に額縁は炭化していますが、当時から額縁に絵を収め、飾っていた事がこの作品によってわかります。
この作品はイタリア以外で初出品です。 |
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第六章 祭壇の神々
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第二章では石の彫刻でしたが、この章では青銅の彫刻が展示されています。
石の彫刻同様にどれも精巧に作られています。
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第七章 家具調度
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この章の注目はなんと言っても「ピッサネラ荘の高温浴室」と「イルカのモザイク」です。
ピッサネラ荘とは農業生産場(オリーブオイル・ぶどう酒)に建てられた、今でいう別荘で、そこに設置されていた個人用の浴室がほぼ原型のまま展示されています。
浴槽は大理石で作られていて、何よりも驚くのは“追い炊き機能”がすでにあることです。また、お湯や水が出る蛇口も現在と同じような姿で設置されています。
イルカのモザイクは浴槽の床に描かれていたものです。
そのほかに食器用の台や飲み物を温めるための“飲料加熱器”など、当時の調度家具の水準の高さが表されています。 |
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第八章 生活活動
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調理器具などを始め、日常生活で用いられていたものが展示されています。
また、当時食べていただろう魚、パン、など食料が描かれているフレスコ画により、当時の食生活をうかがい知る事が出来ます。
フレスコ画はこの他にピクドたちが描かれていて、それはそれぞれ当時の仕事の一部を表しているかのようです |
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第九章 饗宴の場
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ここで注目なのは、まとまって出土した“銀食器”です。55点が出展されていて、どれもイタリア国外初公開です。
銀食器は富の象徴として用いられ、宴はその富を誇示する場所であったと考えられています。
また、水晶やガラスで作られた水差しやグラスなど、とても繊細な装飾が施されていて、当時の技術の高さを表しています。
ここで紹介されているフレスコ画により、富裕層の宴の情景を観る事が出来ます。 |
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第十章 憩いの庭園
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富裕層の家には必ず中庭がありました。
そこには大理石で作られた彫刻や噴水が置かれ、生活の中で癒しの空間として活用されていました。
庭園の周りに配置された部屋からは庭園が見えるように作られていました。
また、各部屋には庭園が描かれたフレスコ画が飾られていました。
この章は大理石で作られた水盤や彫刻、そして庭園を描いたフレスコ画が展示されています。 |
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Ⅳ 「ここだけはおさえたい3つのポイント」 |
今展は大きく3つの鑑賞ポイントがあります。
① 第七章のポンペイ郊外・ピッサネラ荘の高温浴室
② 第九章の輝く銀食器
③ 第十章の庭園の美しさ
この三つは必ずじっくり見ていただきたいポイントです。
この三つが今までの展示ではなかった、当時の生活風景をもっとも反映していて展示の中心といえます。
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Ⅴ 「展覧会概要」 |
■ 展 覧 会 名
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ポンペイ展 世界遺産 古代ローマ文明の奇跡 |
■ 開 催 期 間
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2010年3月20日(土)- 6月13日(日) |
■ 開 催 場 所
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横浜美術館
〒220-0012 横浜市西区みなとみらい3-4-1 TEL:045-221-0300 |
■ 開 館 時 間
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10:00-18:00
(金曜、4月29日~5月5日は20時まで。入館は閉館の30分前まで。) |
■ 休 館 日
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毎週木曜日(ただし4/29(木)は開館) |
■ 交通のご案内
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電車:みなとみらい線(東急東横線直通)/みなとみらい駅下車、「美術館口」を出て徒歩3分。
JR、横浜市営地下鉄/桜木町駅下車、「動く歩道」を利用、徒歩10分。
車:桜木町駅前から日本丸方面へ入る。または桜木町駅前から紅葉坂交差点を右折して
MM21地区へ入り、美術館へ。
横浜駅からは高島町MM21地区入口を通って美術館へ。いずれも3分~5分。
(首都高速「みなとみらいランプ」もご利用できます)
※有料駐車場:10時~21時、収容台数148台、最初の90分500円・以降30分毎に250円 |
■ 観 覧 料 (税込)
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当日・前売/団体
一般 ¥1,400・¥1,200
大学・高校生 ¥1,100・¥900
中学生 ¥800・¥600
*団体券は20名以上。(会場でのみ販売。要事前連絡 横浜美術館045-221-0300)
*小学生以下無料。障害者手帳をお持ちの方と介護者1名は無料。
*本券で横浜美術館コレクション展も観覧可。
*毎週土曜日は、高校生以下無料(生徒手帳・学生証の提示が必要)。 |
■ お 問 合 せ
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03-5777-8600(ハローダイヤル) |
■ 主 催
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横浜美術館 (横浜市芸術文化振興財団、相鉄エージェンシー、
三菱地所ビルマネジメント 共同事業体)、日本テレビ放送網、
読売新聞社、ナポリ・ポンペイ考古学監督局 |
■ 後 援
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イタリア大使館、イタリア文化会館、横浜市市民活力推進局 |
■ 協 賛
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光村印刷、日本興亜損保 |
■ 協 力
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日本航空、日本貨物航空、日本通運、JR東日本、みなとみらい線、
BS日テレ、シーエス日本、
横浜ケーブルビジョン、横浜市ケーブルテレビ協議会、ラジオ日本、文化放送、J-WAVE、
FMヨコハマ、首都高速道路株式会社 |
■ 企 画 協 力
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アール・プランニング |
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Ⅵ 「総評」 |
全体的に見やすい構成になっています。
どの章も非常にわかり易くあっという間に観終わった、という印象です。
博物館での展示を見ていないので、一様に比較は出来ませんが、美術館の特色が出ている展示になっていると思います。
横浜美術館はいくつかの部屋に分かれているので、今回の構成はとても館の特徴が生かされています。
また、規模も大きくなく、中だるみ無く鑑賞することが出来ます。
どの展示品も非常に繊細な装飾がされていたり、鮮やかな色彩かで描かれていたりと当時の生活とそこに息づく美意識を垣間見ることが出来ます。
しかし、その美しさは、一日で全てが埋まってしまってしまい空気にさらされなかったから、と考えると少々複雑な思いになりました。
展示内容、構成ともに美術館では珍しい展覧会だといえます。
今巡回展の美の部分を打ち出したい!と横浜美術館もとても気合が入っています。
ゆえに、是非ごらんいただきたい展覧会です。
主催の日本テレビが連日関連の番組を放映しています。
そのために会期前半と後半は大変混雑することが予想されてます。
平日に時間を取れる方は平日の午前中、もしくは閉館時間の一時間半前に観覧することをお勧めします。
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Ⅶ 「関連イベント」 |
会期中は横浜美術館で関連イベントも実施されます。
あわせて足をお運びください。
◇ 記念講演会◇
「ローマ史からみたポンペイ遺跡」
講師:坂井 聰(同志社大学講師・本展監修者)
日時:3月21日(日曜)15時00分から16時30分 (開場14時30分)
「ポンペイの産業と交易」
講師:浅香 正(同志社大学名誉教授 本展総合監修者)
日時:4月10日(土曜)15時00分から16時30分 (開場14時30分)
会場:横浜美術館レクチャーホール(定員240名・先着順・聴講無料)
◇ 記念トーク◇
「技法から観るヨーロッパ・アジアのフレスコ画」
ポンペイの『赤磨き』を中心に
講師:大野 彩(フレスコ画家)
日時:5月1日(土曜)15時00分から17時00分 (開場14時30分)
会場:横浜美術館レクチャーホール(定員240名・先着順・聴講無料)
ポンペイ遺跡の大きな魅力のひとつに、家々を飾る壁画があります。これらの壁画は、フレスコと呼ばれる技法で描かれました。しかし、ひとくちにフレスコと言っても、その方法は地域や時代
によって様々です。今回のレクチャーでは、長年に渡りフレスコ画の技法研究に取り組んでこられた現代のフレスコ画家・大野彩氏を講師に迎え、ポンペイの壁画にみらる「赤磨き」と呼ば
れる特有の技法を含め、ヨーロッパ・アジアに広がるフレスコの世界についてお話しいただきます。
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